■
全く自分の意思が介在せず、神によって決められた運命の例えを表す物として宝くじと交通事故が挙げられる事が多い。
いかに安全運転を心掛けていようと、対向車線を走る車がいきなり目の前にハンドルを切ってこないとは言い切れない。
当然宝くじも自分の努力や行いが作用する余地というのは無い。善人にも悪人にも平等にチャンスがある。
平日休みの金曜日、時間を潰す目的で入った喫茶店は年寄りの集会場になっていた。
常連たちと思われるその人達の邪魔をしないよう、俺は奥の小部屋に自主的に避難した。
ブランデー、ボトルワイン、ビール等何故か豊富なアルコールを有する割にエッグトーストぐらいしかフード選択肢が無いメニューから、普通のコーヒーを注文し、店内に積まれた店主の趣味と思わしき山盛りの本を1冊抜き取って読んでいた所、
自分と同い年ぐらいの男から「この辺の方ですか?」と声を掛けられた。
「違います、〇〇の方です」と事務的に返し、再び本に目を落としていた所、今度は本格的に話しかけられた。
彼の話を要約すると、こういう事だった。
・私は個人的な趣味で人々にインタビューを行っている。
・地元に住む若者にインタビューをし、その声を集めて何かを造りたい。
・何かポータルサイトとかライターとかをやってるわけではない。
・それを踏まえた上でインタビューさせてほしい。
その時俺は、交通事故みたいだなと思った。
インタビューが悪かったとかそういう意味ではない。
それ自体は粛々と答えたが、平日の昼間に老人の集い場と化した喫茶店に入ったら個人的な趣味でインタビューを敢行する男に出会いインタビューに応じる、ってそんな場面そうそう無いよ。そもそも個人的な趣味のインタビューって何???いや、いいんだけど。
俺は割と長く生きる方だと勝手に思っていたんだけど、
多分いつかくだらない事故で死ぬ未来も、全然ありえちゃうんだろうな、嫌だな~と強く思った。終わり。